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野心のすすめ(林 真理子)

· 8 min read

感想

人生という「戦場」を、「野心」で動き回るためのヒントが書かれた本だと感じた。

受験期や人との競争を強いられるときに読めば、モチベーションにつながるかもしれない。 しかし、個人的に、「まわりはライバルだらけで、どうすればそのライバルに勝てるか?」という考えがベースにあるように感じ、アドラーの本を読んだ直後の私としては、「さっきの本とは真逆だなぁ。真逆の考えが両方ともよりよい人生のヒントなることはあるのだろうか」と思った。真逆だと思ったのは、以下のような、上下、格差、比較の考えである。

しかし、肌もたるみ、髪も痩せ、全身がいよいよ重心に逆らえなくなってくる、四十代、五十代になって、毎日が全身ユニクロでは、惨めこの上ないわけです。

綺麗なOLは上り電車に乗って都心に向かうのに、汚い恰好をして下り電車で千葉に通う日々。

魅力ある男性に囲まれていても、なおも夫を愛し続けていけることこそ、最上の愛情確認ではありませんか。なんといっても、夫と他人を比べることのできる人生のほうが女性としては楽しいと思うんです。

私が自分は偉かったよなぁと自画自賛してしまうのは、独身の頃は世間から「結婚したいとか言ってるけど、どうせ結婚しないんでしょ」と思われていた中で、実際に結婚したことです。私よりずっと美人で結婚できなかった人がいっぱいいるのに。

アドラーの本を読んだ後だったので、筆者にとって利他的とは何か?ということも気になった。 触れられているのは、女性政治家についての文章だった。政治家の野心は筆者の理解を超えると書きながら、

女性政治家についてですが、そもそも「日本を良くしよう」「世の中を変えてやる」という気持ちが、人の上にあるべきものか下にあるべきものかは意見が分かれるところ。しかし、ボランティアをやるのではなく、法律を変えてやるということになってくると、政治家というのはどうしたって上から目線になってくると思うんです。

と書いている。「野心には飢餓感という副作用がありますから、」とも書かれているが、「上には上がいる」みたいなことわざにもあるように、人との比較の勝負で幸せかどうか決める戦いがあるとするなら、それは確かにどこまでも満たされないものになるだろうと思った。

ただ、アマゾンの商品紹介部分にも書かれている、

やってしまったことの後悔は日々小さくなるが、やらなかったことの後悔は日々大きくなる

という考えは、共感できた。 否定的なことを多く書いてしまった気がするが、それは、私が野心をあきらめたからかもしれない。 それはさておき、筆者の文章や表現は、面白く、すぐ読めてしまったので、他のエッセーや小説も読みたいと思った。

その他メモ

この本を読んだ理由

著者の名前は知っていたので、何か読もうを思ったところ、「下流の宴」や「女の偏差値」など、格差を想起するタイトルの作品が多かった。その中で、「野心のすすめ」は、この方の、何らかのルーツを表しているのではないかと思い読んだ。

アドラーの虚栄心の解釈について

ちょうどこの本の前に読んだ、アドラーの「人間を考える」にて、

虚栄心はある一定程度を超えると、極めて危険なものになる。(中略)。人は現実とのつながりを虚栄心によって容易に見失ってしまうのである。人びととの関りも理解せず、人生との結びつきもなく、人生が人に何を要求し、人が人間として何を差し出すべきかを忘れてしまう。虚栄心は、(中略)、人間のいかなる自由な発達も妨げることが可能だが、それは人が、結局のところ自分に利益になるかどうかばかり、たえず考えているからである。

と書いてあった。また、虚栄心について、

「野心」という概念のみが使われる。(中略)。極端な虚栄心を隠蔽するものでしかない。

と書いてあった。なので、私はこれを読む前に、「野心は成功の秘訣になりうるかもしれないが、幸せにとってはどうだろう?」と思った。また、アドラー心理学の「共同体感覚」という概念と関係する考えが本書内で触れられているか気になった。